鎹さやか展 金色の時

 

鎹さやか展

 

 銀箔を焼くことで意図的に変色や劣化を生み出し傷をつけています。これは単なる素材の損傷ではなく、生きていれば避けられない痛みや傷、そして時間の蓄積を重ね合わせた行為です。 
 劣化は一般的にネガティブなものとされますが、そこから立ち上がる新たな美、その過程を私は何より大切にしたいと考えました。長雨にうたれて満開を見る事もできず腐りゆく芍薬に、私は未来への光を感じるのです。ネガティブなものから立ち上がる美は身近に潜んでいます。箔は時とともに変化し続けますが、それを鑑賞する私たちも日々を重ね、作品とともに変わっていく、その共鳴の中に儚くも深い美が宿ると信じました。
 人は誰しも、言葉にできない傷や秘密、後悔や醜さ、罪もあるかもしれません。それらを両の腕で抱え生きる姿を否定せず、受け入れ、静かに、しかし確かに歩み続ける姿に、一瞬の華やかさではない、本質的な強さと美しさが宿っているように感じるのです。

 銀箔の変容に重なるように、人もまた、時間とともに刻まれ、磨かれ、深みを増します。やがて黒くなり、朽ちていくとしても、その変化が、確かに生きた証であり、刻まれた時間の痕跡ではないでしょうか。朽ちゆく姿を恐れるのではなく、黒くなり、朽ちるという営みのただ中にこそ、「金色の時」は静かに宿り輝くように思います。
 個展名の『金色の時』とは、決して光り輝く瞬間のことではなく、むしろ、傷み、変わり、失われていく中で、なお確かに残るもの、黒に沈みながら、深く内側で輝きつづけるものをさしています。

 

開催期間

会期:2025年9月8日(月)~9月13日(土)
開廊時間:12:00~ 18:30 最終日17:00迄
会場:銀座中央ギャラリー第2

 

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